「スリーサウザンド」
一瞬何を言われたか分からなかった。
お金の出し方が分からない私を見かねた店員が私に英語で指示をしたのだった。
ここはベトナムのチェーンスーパーWinmart。
ベトナムに来て初めて一人で買い物に来た場所。
お茶とバナナを買ったのだが、お金の出し方が分からないのだ。
取り敢えず1番大きなお札を出してその場をやり過ごそうとするが店員からは端数を出してとのこと。
(ベトナムではよくあるらしい)
言い訳をすればベトナムのお札は日本と全く違って種類も多ければ、単位も大きい。
そして私はめっぽう数字に弱く、咄嗟の判断が苦手だ。
つまりは買い物だけでも一苦労なのだ。
これはベトナムに来たばかりの頃の話だが一ヶ月経った今も状況は変わらない。
買い物だけじゃない、あらゆることが最初は一人では出来ないのだ。
夫は気遣って家にいる時間をなるべく確保してくれるが、とは言ってもずっと一緒にいるわけにもいかない。
散歩をするにも、水を買うにも、Grabでタクシーを呼ぶにも、いちいち立ち止まってしまう。
海外旅行は人並みに行っていたから、ベトナムでの生活もなんとか出来るだろうと思っていたが、やはり日常生活を送るのは大変だ。
これが海外で生活することなのだと思った。
すごく落ち込む程ではないのだが、何をするにも気軽に出来ないというか、よっこらせと腰を上げる必要がある。
外に出れば、出来ない自分といちいち対峙して、モヤモヤする。
海外にいればそのモヤモヤとずっと付き合っていくのだろう。
もちろん、色んなサービスがあるので選択すれば、日本と変わらない生活を送ることも可能だ。
だけど、新しい土地で暮らすということはそのモヤモヤも醍醐味というか楽しむべきものなのではないかとも思う。
話は変わるが我が家の息子は8ヶ月になる。
光の速さで成長し、出来ることが増え、動く範囲も少しずつ広くなる。
手に届くものはなんでもいいから触り、舐めて遊ぶ。
更にまだ人見知りをしないので外出先では知らない人に対してもニコニコし、子供好きなベトナム人もデレデレが止まらない。
結婚してから子供がいなかった期間が長かったため、夫婦二人で身軽に色々なところへ行っていた頃が懐かしくもある。もしハノイに二人で来てたら色んな観光地を飛び回っていただろう。
だが赤ちゃんを通して見えてきた海外生活やベトナム人との交流がある。
息子には感謝だ。
赤ちゃんて本当にすごい。
この躊躇ない行動力と知らない土地でも人を笑顔にさせてしまう爆発力。
いちいち行動するのに躊躇してしまう私が海外生活で見習わなければいけないのは、目の前にいる我が子ではないかと思う。
今回海外で生活してみて、自分の保守的な部分が垣間見えた気がする。
心にある小さな壁を乗り越えられるか、試行錯誤する毎日だ。
赤ちゃんのような純粋無垢な行動力はもう持ち合わせていないけど、大人だからいちいち気合を入れて行動することは出来る。
そして大人は弱いので、精神安定のために何かできたら自分に○印をする。
その○を一つずつ増やしていく。
今私に出来ることはそれくらいなのだ。
Winmartで買ったバナナを食べ、今日もよしっと心のエンジンをかけて、外に出ることにする。
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